フォトン(光子)の二重性
「光を学ぶ」では、光は “波”と“粒”の2つの性質を持っている、と説明してきました。
このページでは、そのことをもう一度よく考えてみましょう。
光は波?-ヤングの干渉実験-
イギリスの物理学者トマス・ヤングは、1807年に「ヤングの干渉実験」と呼ばれる実験によって、光の波動性を主張しました。このヤングの干渉実験では、2つのスリット(ダブルスリット)を通過した光(波)が、強め合ったり、打ち消し合ったりして干渉縞が現れることが示されました。この現象は、光を“波”と考えないと、説明できません。
光は粒?-アインシュタインの光量子説-
ドイツやスイス、アメリカで活躍したアルベルト・アインシュタインは、1905年、光を波として考えるだけでは説明できなかった「光電効果」について、「光は波長に応じたエネルギーを持つ粒である」と考えることで、これを説明することに成功しました。
光電効果とは、金属に青い光を当てると電子が飛び出す現象ですが、赤い光では、どんなに強く長時間当てても電子は出てきません。これを理解するためには、光をエネルギーを持った粒(かたまり)と考え、青い光は電子を飛び出させることのできる高いエネルギーを持った光の粒、赤い光はこれができない低いエネルギーの光の粒であると考える必要があったのです。
このように、波の性質だけでなく、粒としての性質も持っていることから、光は「フォトン(光子、光量子)」と呼ばれるようになりました。
フォトン(光子)の二重性
「光は、波でもあり粒でもある」―このことを深く理解するための実験が行われました。
それは、ヤングの干渉実験(ダブルスリットの干渉実験)において、光をとても弱くしていって「光が一粒しかない状態」でも、干渉縞が現れるかどうかを調べるもので、光の一粒一粒を検出する技術を使って行われました。そして実験の結果、一粒のフォトンが、干渉縞を示すことが確認されたのです。
極限まで明るさを絞った光をスクリーン上で検出すると“粒”としてふるまう(左)一方、記録された“粒”の数が増えると干渉縞が姿を現す(右)。これにより光が“波”としてもふるまうことがわかる
さらにこの実験では、スリットの一つを閉じ、一粒のフォトンが片方のスリットだけを通るようにすると、干渉縞が現れないことがわかりました。これは、ダブルスリットの干渉実験では、一粒のフォトンが二つのスリットを同時に通過して、それ自身で干渉したということを示しています。
これらの実験から、フォトンは粒のような性質を持つものとして検出されながら、一方で波のようにダブルスリットを同時に通過して干渉するという、波と粒の二重の性質を持っていることがわかります。
フォトンの二重性を世界ではじめてテレビカメラでとらえたこの実験は、右の映像でご覧いただけます。
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「単一フォトンによるヤングの干渉実験」に関連する文献はこちらをご覧ください。
文献(1)
Y. Tsuchiya, E. Inuzuka, T. Kurono, M. Hosoda, Photon-Counting Imaging and its Application, Advances in Electronics and Electron Physics, Vol. 64A, pp. 21-31, 1986
https://doi.org/10.1016/S0065-2539(08)61600-5
文献(2)
土屋 裕, 犬塚 英治, 杉山 優, 黒野 剛弘, 堀口 千代春, フォトンカウンティング領域における「ヤングの干渉実験」, テレビジョン学会誌, 36巻, 11号 pp. 1010-1012. 1982
(Y. Tsuchiya, E. Inuzuka, M. Sugiyama, T. Kurono and C. Horiguchi, 'Young's Experiment for Interference' Under Photon-counting Light Level, The Journal of the Institute of Television Engineers of Japan, Vol. 36, No. 11, pp. 1010-1012. 1982 [published in Japanese])
フォトン(光子)の本質
こうして、アインシュタインの光量子説をもとに、量子力学的な考察や実験によってフォトンの二重性は確認されました。そして現在ではフォトンは、光の吸収や放出といった光と物質の相互作用が関連する分野では粒として、光の伝播に関わる領域では波として扱われています。
それでは、フォトンはどうして同時に2つのまったく異なる性質を持てるのでしょうか? フォトンとは、何者なのでしょうか?
現在、フォトンは「宇宙を構成する4つの力」のうち「電磁気力」を伝える働きをしていることがわかっています(その他の3つは「重力」「強い力」「弱い力」です)。フォトンは、私たちが暮らすこの世界の成り立ちに大きな役割を果たしており、物質や生命の根源に深く関わっているのです。
フォトンの本質を知ることで、光をもっと有効に利用でき、想像を超えた革新的な社会がどんどんと拓かれていくことでしょう。このウェブサイトをご覧のみなさんの新しい感性や想像力、熱意によってそれが実現すればすばらしいですね。
「光子の裁判」は、ノーベル物理学賞受賞者、朝永振一郎氏によって1949年に発表された、フォトン(光子)の二重性がミステリアスなドラマ(法廷劇)仕立てで語られる物語。量子力学の核心をわかりやすく解き明かした科学エッセイの名作といわれ、今でも多くの人に読まれています。
最近の研究では、フォトンは2つのスリットのうちどちらのスリットを通過したのかを推定する研究、すなわち「弱値」を使った計算や実験がさかんに行われ、フォトンの本質を探る研究はますます注目を集めています。
「光子の裁判」は量子力学に関するいくつかの書籍の中に収録されています。興味のある人はぜひ読んでみてください。
・「量子力学的世界像」 朝永振一郎著(弘文堂、1965年)
・「鏡の中の物理学」 朝永振一郎著(講談社学術文庫、1976年)
「『神、光あれと言いたまいき』
―太古より光は神と共にありました。いや、神そのものでした。人々は、あらゆる命の源である光に、神を見たのでしょう」
浜松ホトニクスが1984年に制作した光についての教育映画です。アニメーションを交えたわかりやすい解説で、「光とは何か」に迫ります。