光の研究史
これまで、多くの研究者が「光とは何か」という問いに挑んできました。
光学は力学と並んで最も古い歴史を持った学問だといわれています。
光の研究の進歩は、これから紹介するようにさまざまな分野の偉人たちによって成され、
他の学問分野を牽引し、産業・文化の発展にも密接に関わってきたのです。
紀元前5〜3世紀
「光の本質は白色光。
光と闇(暗さ)の混ざり合いで色が決まる」
紀元前5〜3世紀のギリシアにおいて、光学の基礎が形成されました。古代ギリシアの三大哲学者といわれる、ソクラテス(BC469 - BC399)、プラトン(BC427 - BC347)、アリストテレス(BC384 - BC322)らによって、天文学、生物学、数学、政治学、哲学等の学問の基礎が築かれました。そして、ユークリッド(BC330頃 - BC275頃)によって、光学の基礎となる反射や散乱、視覚などについて、「光学」などの本がまとめられています。
ギリシア時代に構築された光学の考え方は、ニュートンが登場する17世紀後半まで大きな影響力を持ちました。
10世紀〜11世紀
「なぜ、月は、地上に近いところでは
大きく見えるのだろう?」
(イスラム圏の数学者、天文学者、物理学者、医学者、哲学者)
イラクの都市バスラ出身で、バスラおよびカイロ(エジプト)で活躍。ギリシアの諸学問を深く研究し、多くの著作を残しました。光学に関しても、レンズや鏡を使った反射や屈折の実験・観察を扱った「視覚論」「光学の書」など、光学史上の重要な著作を残しています。他にも、凹面鏡の反射や、ガラス球の屈折、月や星の光、宇宙の構造などを扱ったものがあります。実験的方法と数学的方法を用いて精密な理論を展開したことは、近代科学の先駆となりました。
17世紀〜18世紀
「光は色のついた粒子(つぶ)である」
(イギリスの物理学者・数学者・天文学者)
ニュートンの三大発明に挙げられる、「光のスペクトル分解にかかわる光学研究」を行いました(その他は「万有引力」と「微積分学」)。レンズ、プリズム、鏡、望遠鏡、顕微鏡、光学研磨などの技術を集め、光学の学問の発展に寄与しました。また、1668年に、色収差の問題のない反射望遠鏡を作成しています。1672年に「光と色についての新理論」の論文を発表して、アリストテレスの「白色(太陽光)は純粋なもの」ではなく、「光は屈折性の異なるさまざまな色が混ざりあったもの」であることを、プリズムの実験から示しました。1704年には、「光学」という論文を著し、その中で、「光の微粒子説」を表しています。
「光は波動である」
(オランダの数学者、物理学者、天文学者)
オランダのハーグで、外交官・政治家を父として生まれました。
天文分野では、自作した50倍の望遠鏡で、土星の衛星タイタンや土星の環が環状であること、オリオン大星雲などを発見しました。1690年に、「光についての論考」を発刊して、光の波動説を提唱しました。この中で、光の波動説を用いた光の反射、屈折の現象を説明。やがて波動説はニュートンの「光の粒子説」との激しい論争を重ねながら、主流となっていきます。
18世紀〜19世紀
「光の波動を証明」
(イギリスの物理学者、古典学者、考古学者)
古代エジプト文字の解釈、血液循環の理論、秒振り子の提唱、弾性論へのヤング率の導入など、業績は多岐にわたっています。視覚の研究(眼球の調節機構や三原色説)から光学の研究にむかい、1807年には、点光源から出た光で、2つのピンホールを照らすと、適当な位置のスクリーンに干渉縞が観測される実験(ヤングの実験)を行い、光の波動説を主張しました。弾性体力学の基本定数ヤング率として、名前が残っており、ほかにも、エネルギー (energy) という用語を最初に用い、その概念を導入しました。
「電磁波の存在を予測」
(イギリスの理論物理学者)
1864年に、現在の電磁気学の基礎となっているマクスウェルの方程式を導いて、古典電磁気学を確立しました。次のような4つの式で示される「マクスウェルの方程式」は、“物理学の宝石”と呼ばれています。
さらに、電磁波の存在を理論的に予想し、その伝播速度が光の速度と同じであること、および横波であることを示しました。土星の環の構造や、気体分子運動論(マクスウェル・ボルツマン分布)などの研究でも知られています。
20世紀
「光は、フォトン(光子)である」
(ドイツ、スイス、アメリカの理論物理学者)
1905年に発表した3つの研究により、20世紀最大の物理学者と呼ばれています。その3つの論文とは、光電効果の理論、ブラウン運動の分子運動学理論、それに特殊相対性理論です。特に相対論は電磁気学の相対性原理の中に表現されていた時間と空間についての新しい発見であり、19世紀の物理学を迷わせたエーテル問題を解決しました。相対性理論の研究が有名ですが、光量子仮説に基づく光電効果の理論的解明によって1921年にノーベル物理学賞を受賞しています。
このように2000年以上の研究を重ねて、人類は光の正体「フォトン(光子)」に辿りつきました。このフォトンは、「波であり粒でもある」という二重性など、多くの不思議な性質を持っています。それらを解明することで、光を今よりもっともっと有効に使えるようになるかもしれません。
宇宙や生命の誕生のカギを握る物質ともいわれる、フォトン。人類にとって、光の研究史は、まだ始まったばかりなのかもしれませんね。