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「素粒子物理学の話」イントロダクション

<連載 第1回> 「素粒子物理学の話」イントロダクション

  • 執筆者
  • 大須賀 慎二(おおすか しんじ) 浜松ホトニクス株式会社 中央研究所/専門分野:光計測(微弱光計測)、放射線計測、数理統計

“物質とは何か?”の問いから歩んできた道
私たちを含めて自然界にある物質は、何から、そして、どのようにして構成されているのでしょうか。19世紀初頭にジョン・ドルトンやアメデオ・アヴォガドロらにより、物質を構成する基本単位としての原子分子の存在が唱えられました。それ以降、1897年のジョゼフ・ジョン・トムソンによる電子の発見、1911年のアーネスト・ラザフォードによる原子核の発見、1932年のジェームズ・チャドウィックによる中性子の発見……と続き、最近では、2013年にヨーロッパのハドロン衝突型加速器(LHC)における実験でヒッグス粒子が発見されています。このように、「物質とは何か」の問いに対する人類の理解は深まり、現代の素粒子物理学はこの問いに対する答えとして、「標準理論」による次のような描像を与えています。
物質はクォークとレプトンと呼ばれる粒子からつくられ、粒子の間に働く力(電磁気力、弱い力、強い力)はそれぞれの力を伝える粒子をやり取りすることで伝わる。そして粒子の一部はヒッグス機構と呼ばれる仕組みにより質量を獲得する。
物質をつくる粒子と、力を伝える粒子、その他の関係を示す標準理論は、多くの物理学者の理論と実験の両面からの研究成果を積み重ねた末の到達点であり、人類の英知の結晶といえます。
素粒子物理学と光の関係
ところで、素粒子物理学においてフォトン(光子)はどのように位置付けられているのでしょうか。上の図に示したように、素粒子物理学の標準理論によれば、 フォトンは力を伝える素粒子の一つで、素粒子の間に働く電磁気力はフォトン(光子)を介して伝えられます。原子の中で、プラスの電荷を持った原子核の周りにマイナスの電荷を持った電子をつなぎとめている力も電磁気力です。したがって、フォトンは、私たち自身を含めた物質の成り立ちに大きな役割を果たしてい るといえます。
私は光(フォトン)の基礎研究、応用研究の仕事に30年以上、取り組んできました。光電子増倍管や半導体光検出器などの光技術が、スーパーカミオカンデや大型ハドロン衝突型加速器(LHC)、その他の実験施設を舞台とした、人類の知識の地平を広げる研究に役立てられていることを、うれしく思っています。そして、「物質とは何か?」という根源的な問いに対する答えに、私たち人類の手が届きつつある、そんな感じがする時代に立ち会えて、胸がわくわくしています。この連載では、素粒子物理学が解き明かしてきた、また、解き明かしつつある「物質とは何か?」の問いへの答の一部を、私なりに少しずつ紹介してみたいと思います。
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